【読後感想】死を悼む動物たち | バーバラ・J. キング

読書の醍醐味は、自分の知らない世界を知ることだ。それも、実際の世界の、思いもよらない面を垣間見ることはとても楽しい。慣れてしまった日常。知らない世界が広がっているということを、忘れてしまいやすい。だから、日常生活に全く役には立たないけど、自分が思っている「世界の枠ぐみ」を広げてくれる本に出会えると嬉しい。
 

 
動物は何を思い、何を考えるのか。
おそらく、動物と一緒に生活していない人にとっては、持ちあわせないか、またはいつか動物と触れあった時に感じていたけれども、今では忘れてしまっている感覚だと思う。

人間どうしとて、相手の思いを読み取るのが難しいことはある。言葉を覚える前の赤ん坊、疾患や外傷により意思疎通が困難になった場合、また全く異なる文化のもとに育った時など。
 
でも、動物の場合はそれとは一味違う感覚に陥る。
 
動物の感情。
目の前にいる動物の表情。
そしてその奥にある感情。
 
読み取ったかと思った瞬間、瞬く間に消えてしまう表情。前後の行動とのつながりが、全く理解できないこともある。読み取ったかに思えたものも、もしかすると私の思考の投影に過ぎなかったのかもしれない。目の前の動物と自分とでは、違う時間が流れているような感覚。以前、自分が動物と過ごした時があった時の感覚を思い出した。
  
本書では、動物たちがその家族や友(友犬、友ネコ、友象から友亀にいたるまで)を失くしたことを知った後に観察された、普段とは異なる行動が多数紹介されている。同じ家や動物園で買われている仲間、また同じ野生の群れにいる動物が亡くなって遺されたあと、活発さを失い欲を落とす者、友を失った後目に見えて衰弱し、死んでしまう者、埋葬された場にとどまる者、霊長類の群れで執り行われるお別れの儀式、などのエピソードが紹介されている。中でも、自分のお気に入りのタイヤを友の墓に備えたサンクチュアリのゾウのエピソードは印象的だった。
 
とはいえ、著者の本当のねらいは、読者を感動させることではないと感じる(すくなからず狙ってはいると思うが)。著者は学者だ。こういう動物の行動を「動物も、友の死を悲しむ心を持っているのだ」という結論に結びつけることには、慎重であるべきだと、何度も本の中で主張する。悲しんでいるように見えるだけで、実は仲間が死んだことすら理解していないのかもしれない、落胆しているかに見える姿は、ただいつも横にいた存在がいなくなって混乱しているだけかもしれない、と。
  
動物が死を本当に悼んでいるかどうかは、もっと科学的論証を積んで証明されるべきだと著者はいう。それでも、仲間の死に臨んで悲しんでいる(かに見える)動物たちのエピソードを多数紹介することで、動物たちは高度に社会的な感情を持っている可能性があることを示唆する。
 
私たちは、動物の感情を察する際に、人間の感情や行動パターンをもって推測する。というか、一般の人々はそれ以外の方法を持ちえない。動物が人間に似た行動をとっていたとして、人間と同じ感情を持っているとは、一概には言えないのだ。
脳内のストレスホルモンの推移を観察するなど、科学的アプローチが無いわけでは無いが、完ぺきに動物たちの思う所を理解することは困難だ。それでも、本書に登場する数多くの、仲間の死に直面した動物たちの姿を読むと、人間と他の動物の差は意外と大きくないのかもしれないと、あらゆる生物の関係がフラットに見えてくる。